きっかけ
いつのことだったのか、それをもうまるで思い出すことができない位、以前のこと。
初めて会ったその時に、何がきっかけだったのか、ブドウの木の話になった。
それを入手することが困難だと、そう口にした自分に、その人は
そんなことはありませんと、そう言って、その場を離れていった。
そのときに受けた小さな依頼の品物を間違いない届け、そしてその縁は
もう切れたものと、そう思って、その出来事も交わした言葉も
とうに忘れた頃、その人は再び現れ、"まだブドウの木は必要ですか?"
と、そう尋ねてくれた。
それからずっと、ほぼ途切れることなく、これまでもそして今も尚、
ブドウの木が変わらず、ここに、もたらされている。
あの頃、何ひとつ伝手を持たず、あんなにも手にすることが難しく、入手の道を、
ただただひたすらに求め続けていたのに。
手にしたからといって、それを全て活用できるはずは無し、それがブドウの木。
けれど初めから手に入ることが無ければ、それを活用できるはずもなく、
だから少なくとも、あの時から、ひとつの道が開けた、
たったひとつのちいさな出会いがそのきっかけだった、間違いなく
あれがひとつの、はじまりだった。
人と人が出会う、そのひとつの事柄として、あれは稀なことなのか、
それとも当たり前のことなのか、
どちらにしても間違いないのは、それはありがたい出会いであり、
ありがたいご縁であること。
相手の方のご厚意に支えられ、ここまで歩んで来られている、
それは、確かなことなんだ。